阿弥陀経、長い舌

古本龍太

 

6月の日曜日は毎回、阿弥陀経をおつとめしました。たいていは初盆の時と年に数回、阿弥陀経をとなえていましたが、今年は毎サンデーにとなえたので、阿弥陀経にでてくる言葉やフレーズに慣れてきて、以前よりもスムースにとなえられるようになったのではないでしょうか?

特に、「舎利弗(シャーリーホーツ)」というお釈迦様のお弟子さんの名前は38回でてきますし、後半の部分では六回同じフレーズを繰り返すところがあるので、お経のご文がすらすらでてくるようになったことでしょう。この六回繰り返すところは、六方段といわれていて、すべての仏様方が阿弥陀仏をたたえられ、阿弥陀仏の救いを信じるように勧められています。

シャーリプトラよ。私が、いま、阿弥陀仏の不可思議の功徳を称賛するように、東方にもまた、アクショービア(不動なる者)と名づける如来、メール・ドヴァジャ(スメールの幢幡を持つ者)と名づける如来、マハー・メール(大いなる須称山)と名づける如来、メール・プラバーサ(須称山の輝きがある者)と名づける如来、マンジュ・ドヴァジャ(妙なる幢幡を持つ者)と名づける如来などの恒河(ガンジス川)の砂の数ほどの諸仏がおり、おのおの、その国において、 広長の舌相を出し、あまねく三千大千世界を覆って、この誠実の言を説きなさる、『汝ら民衆よ。まさに、この、阿弥陀仏の不可思議の功徳を称賛する、一切の諸仏に念じ護られていると名づける経を信ずるべきだ』と。

というのがこの部分の訳です。最初のほうに「私」とあるのは、お釈迦さまのことで、お釈迦様が阿弥陀仏をたたえられるのと同様、東方におられる仏さま方も、阿弥陀さまをおほめになっている、というのがその内容です。東方の次は、南、西、北、下、上と続き、六つの方角におられるすべての仏様が「阿弥陀さまはすごい、みんなこの教えを信じるべきだよ」と勧められているのです。

六方段では、それぞれの方角の仏様の数について述べられています。その数は、ガンジス川の砂の数ほどで、数えることのできないほど多くの仏様方がおられるといわれます。これを聞いて、「あれ、どこかで聞いたことあるぞ」と思われた方もおられると思います。それは、仏教讃歌「聖夜」の歌詞です。「ガンジス河の 真砂より あまたおわする ほとけたち 夜ひるつねにまもらすと きくになごめる わがこころ」とあります。この聖夜の歌詞のように、六方段では、阿弥陀さまにおまかせする人々は、すべての仏様方からまもられている、とも示されています。

そして、仏様方が、阿弥陀さまが素晴らしい仏さまで、この教えが真実であると証明するのに、長い舌をだして全世界を覆う、という表現があります。それはインドでは真実を述べる者は舌が長い、とされていたためです。

それにしても「舌で世界を覆い尽くす」など、お経の表現はスケールが大きく、想像するのが難しいのですが、それは仏様のすばらしい、不可思議な力をあらわしている、と受けとめます。

このお経を親鸞聖人の師である法然上人が解説してくださっていて、六方の仏様方が長い舌をだして、教えを信じるように勧められるのは、われわれが疑いやすいからだと言われます。阿弥陀様やお浄土など、最初は自分たちの狭い知識や常識にとらわれて、疑いがちなので、仏様方が、何回も勧められるのです。

そして、法然上人は、「我々が阿弥陀様におまかせしないと、ほかの仏様方がずっと舌をだしっぱなしで、舌をひっこめられなくて困るだろうから、我々はすみやかにこの教えを信じて、念仏するように」とユーモラスにご教示されています。

南無阿弥陀仏