リスペクト

古本竜太

 

数ヶ月前、Rolling Stone誌が17年ぶりに「500 Greatest Songs of All Times」を更新しました。前回の2004年のリストでは、上位40曲のほとんどは三世や団塊の世代に馴染みのある曲で、ビートルズ、マービン・ゲイ、エルヴィス、ボブ・マーリーなどの50年代、60年代、70年代の曲が並んでいました。その時の1位はボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」でした。

新たに発表されたリストには、若い世代の曲が選ばれています。80年代、90年代、そして21世紀の曲がトップ40に多くランクインしており、年配の方の中にはこの新しいリストに納得がいってない人もいます。けれども、アレサ・フランクリンの「リスペクト」が1位に選ばれていているので、多くの年配の方々はこの少し若者向けにアレンジされたリストを受け入れています。

“Respect “は、もともと1965年にオーティス・レディングの曲として発表されたもので、歌詞の内容は、男性から女性に敬意を求めるものでした。この曲を気に入ったアレサ・フランクリンは、1967年にこの曲をカバーしました。彼女は歌詞のいくつかの部分を変えて、女性から男性へ敬意を求めたのです。この曲は大ヒットし、ビルボード・チャートの1位を獲得。その年のグラミー賞も受賞しました。彼女は、この曲はただ単に女性と男性の関係を歌っただけだと言っていましたが、1960年代後半の、女性の権利運動が盛り上がる中で、ムーブメントを牽引するテーマ曲だと受けとめられるようになりました。彼女はこのフェミニズム的な解釈を誇りに思っており、2016年に『エル』誌のインタビューを受けた際には、「私たち女性には力があります。なんでもこなすことができるのです。女性はもっと尊敬されるべきなのです。私たちの社会で最も尊敬されていないグループは、女性と子どもとお年寄りだと思います。」と言われています。

浄土真宗の念仏者が日々実践しようとつとめることのひとつに他人への「尊敬、敬意」があります。子ども、お年寄り、女性、男性、LGBTQ、貧しい人、金持ちの人、自分の好きな人、嫌いな人。すべての人を尊敬の眼差しを持って接するのです。

英語の辞書によると、尊敬の定義のひとつは、「良い考えや資質を持っている人やものに対して、感心を感じたり、示したりすること」とあります。

人にはそれぞれ違った性格や資質がありますが、通常、私たちは自分よりも優れた資質を持つ人を尊敬します。

しかし、他人を見て、自分よりも優れていない人だと思ったら、その人を尊敬するでしょうか?恐らく、尊敬しないでしょう。むしろ見下すかもしれません。

浄土真宗の仏教徒は、相手の資質や性格を見て尊敬するかどうか決めるのではありません。ひとりびとりの心に阿弥陀仏がはたらいておられるのを感得し、すべての人が涅槃に到達する可能性を持っていることを尊重するのです。

親鸞聖人は「唯信鈔文意」の中で次のように述べています。

「この如来、微塵世界にみちみちたまへり、すなはち一切群生海の心にみちたまへるなり。草木国土ことごとく、みな成仏すると説けり」

親鸞聖人は、阿弥陀仏の力がすべての生物や非生物の心に届いており、成仏させようとはたらいてくださっていると言われるのです。

そして親鸞聖人は、阿弥陀仏の力が心の中ではたらくと、お浄土に生まれて仏になるための「信心」という形になるとも言われます。それで親鸞聖人は、私たちの心の中にある信心を、「仏性、仏になる可能性」だとも呼ばれています。仏教徒であろうとなかろうと、善人であろうと悪人であろうと、老いも若きも、男性も女性も別の性も、金持ちであろうと貧乏であろうと、誰にも阿弥陀仏の力が届いており、等しく仏になる可能性を持っているので、誰もが尊重されるべきだということになるのです。

法華経に”常不軽菩薩 “という菩薩が登場します。この菩薩の修行は、すべての人に常に敬意を払い、合掌することです。この菩薩を嫌い、石を投げる人もいましたが、”他のすべての人は未来の仏であるから、すべての人を尊敬する “という心情で、敵にさへも合掌し、敬意を表すのです。

浄土真宗の信者の中には、他人を菩薩だと尊敬する方もいます。中には、自分を怒らせた人に対して、特に感謝する方もいます。自分が怒るときは思い通りにならないときです。思い通りに物事を進めてやろうというのは自己中心の恥ずかしい思いなのです。そして自分を怒らす人に「それを気づかせてくれてありがたい」と感謝するのです。

全ての人を尊敬するのは難しいことではありますが、日々の仏道の実践として人を敬うことを心がけましょう。

南無阿弥陀仏